なかまの声では、個人の考えや想いを尊重し、インタビューを元にそのまま掲載しています。
リンネットが特定の治療法や物品を推奨するものではありません。
ご自身の治療は、主治医や医療者とよく相談して決めるようにしてください。

Ayakoさんのストーリー後編です。術後14年目に悪化したリンパ浮腫と、上手く付き合えるようになるまでの道のり。おしゃれをあきらめず、自分のスタイルを見出したAyakoさん。26年を積み重ねたからこそ語ることができる未来への視線が清々しいです。 前編はこちら▶︎▶︎▶︎

リンパ浮腫を語る仲間がいるから、未来は明るい

リンパ浮腫が術後14年目に悪化したそうですね

子宮頸がんの術後から小康状態だった右脚のリンパ浮腫を、14年目に悪化させてしまいました。2009年にアメリカの癌学会とがんセンターの視察ツアーに参加し、帰国後しばらくしてのことです。
飛行機の気圧変化や長時間同じ姿勢でいたことや、移動の疲れの影響。同じ時期、病院の園芸ボランティアで重い土を運んだり、長時間立ったりしゃがんだりを繰り返していたことも、脚に負担をかけたのだと思います。

リンパ浮腫の基礎知識はありましたが、私自身は軽症だったので、ひざ下用の弾性ストッキングを履く以外にケアはしていませんでした。ただ長時間のフライトに備え、渡米前にリンパ浮腫ドレナージの専門施設である後藤学園の治療室で、バンテージ(弾性包帯)の巻き方やマッサージの指導を受け、視察ツアー中は弾性ストッキングもバンテージも活用していました。
症状の悪化がみられたので、すぐに連絡し、治療室で用手的リンパドレナージと圧迫法の施術を受け、弾性包帯と弾性ストッキングを毎日着けるようになりました。

リンパ浮腫セラピストの第一人者との出会いで生活が変わっていった

現在はどのような症状ですか

普段の脚の左右差は3~5センチくらい。後に、左足の指先にも新たな浮腫が出ました。
これまで学んできた知識や、患者会のセラピストスタッフのアドバイスのおかげで蜂窩織炎(ほうかしきえん)になったことはありませんが、右足首にリンパ漏が出て、皮膚を傷つけると感染の原因になるので、気をつけて生活しています。
毎日のケアが苦痛で5年前に1度、外科的手術(LVA)の可能性について浮腫専門クリニックの医師に相談したことがあります。私の場合は発症から20年以上経過しているので「難しいでしょう」ということで、手術は選択肢になりませんでした。
やっぱりな、という気持ちでした。

毎日のケアとはどんなところが大変ですか

リンパ浮腫が悪化して指導を受けた毎日のケアは、とんでもない労力が必要でした。毎晩お風呂上がりに弾性包帯などを10本使い、右脚にしっかり巻いて寝て、翌朝をほどいて弾性ストッキングに履き替え1日を過ごす、この繰り返しです。
弾性ストッキングは、専用グローブがないと脱ぎ着ができないほど力と時間が必要で、包帯は脚に巻くのも、ほどいたものを巻きとるのにも時間がかかり、手洗いして陰干しするという手間の掛かりようです。最初こそ真面目にやっていましたが、脱ぎ捨てた包帯やストッキングを見てはげんなりし、次第に追いつめられていきました。

「頑張らなくていいよ」楽なケア法と便利グッズに心が救われた

さらに、通っていた治療室が移転となるなど八方塞がりになった私に、手を差し伸べてくれたのがリンパ浮腫セラピストの第一人者である、佐藤佳代子先生でした。
佐藤先生は、患者会のリンパ浮腫セミナーの講師として10年来のお付き合いがあったので、「毎日のケアは大変でとても続けられません」と本音をぶつけると、「ここまでやらなくても、これでいいよ」と、その都度、簡単に行える圧迫法や便利グッズを考えて、提案してくださるようになりました。
リンパ浮腫の方は、多かれ少なかれ毎日のケアに疲弊していて、なかにはやめてしまう人もいるのではないでしょうか。楽な方法やグッズがあれば再びケアしようという気になりますし、何より「頑張らなくていいよ」と言われているようで、救われた気分になります。
佐藤先生とは、リンパ浮腫の弾性着衣 保険適用のための要望活動もご一緒させていただきました。

信頼している佐藤佳代子先生と

生活を大きく変えたグッズがあるそうですね

以前はリンパ浮腫用の圧迫グッズは種類が少なく限られていましたが、今はさまざまな便利グッズが開発されていますね。
なかでも(佐藤先生が開発に関わられた)補助的弾性ストッキング「エアボ・ウェーブ」は私の生活スタイルを大きく変えてくれた1つです。圧迫が弱めで楽に脱ぎ着ができる製品で、上から包帯を巻いて圧を調整することもできます。
日常の部屋着としてはもちろん、エアボだけで寝たときの楽さは、この上ない解放感でした。さらに近所の外出時に履く人もいると聞き、早朝の散歩が日課になりました。

「エアボ・ウェーブ」これで生活が変わりました

実は、1年前に早期の乳がんが見つかり、これからの治療に備えた体力づくりのために、散歩を日課にしようと考えていたところでした。ただ労力のいる弾性ストッキングを毎朝履くのは、更年期症状で手のこわばりがある私には無理でした。
朝起きて、エアボを履いたまま早朝に散歩してみると、澄んだ空気が気持ちよく、富士山をバックに自分の影を撮影するのも楽しみのひとつになりました。浮腫で太くなった脚も、影ならば角度次第でいくらでも長く細く撮れるのがうれしくて。
散歩を始めて1年経ちますが、生活を整える大事な時間になっています。
症状やその日の予定でグッズの選択肢が広がることは、本当にうれしいです。

影なら私の足もほっそり

リンパ浮腫や排尿障害のグッズもおしゃれ感で気分を上げる

毎日のケア以外で、ツラいと感じることはありますか?

やはり見た目の変化です。
私は足首がひどくむくむので、気持ちがへこむうえにファッションも限られてしまいます。まだ若かったので、昔おばあちゃんが履いていた、肌色タイツのような弾性ストッキングを見た時は、「これしかないのか」と悲しくなりました。
冬は上から黒のタイツを重ねられますが、夏は片側だけのストッキングを履き、オープントゥにマニキュアをするなど工夫して、自分らしいファッションで気分を上げるようにしています。

あと、簡単に脱ぎ着ができない弾性ストッキングを履いて長時間外出するとき、お手洗いの心配がツラいですね。下肢のリンパ浮腫の方で、万が一間に合わないときのために吸水パッドや吸水ショーツを使われている方は多いのではないでしょうか。
最近は、高性能の吸水パッドやドラッグストアでも買える、おしゃれな紙製の吸水ショーツも開発されているので、色々取り揃えて患者会で紹介しているんですよ。私は素敵な下着を身に着けると気分が上がります。リンパ浮腫や排泄障害がある人こそ、機能面だけでなく、テンションが上がる製品を求めているのではないかと思います。

おしゃれな尿もれショーツだと、気分が上がります

リンパ浮腫の未来を語れる仲間がいるから、未来は明るい

リンパ浮腫のある人生は、やっぱりツラく、なければどんなにいいだろうと思います。それでも発症から26年の間に、新しい治療法ができ、便利グッズや普通のストッキングにしか見えない弾性ストッキングが登場するなど、おしゃれに過ごすことのできる専用製品が開発されました。
リンネットさんのようにリンパ浮腫に特化した患者団体もできましたしね。リンパ浮腫の未来の話ができる仲間がたくさん現れたことが、私は心からうれしいです。

所属するオレンジティには、今リンパ浮腫のセラピストスタッフが4名いて、何か困ったことがあればすぐに相談ができる体制を整えています。そして、私自身が欲しいと思ったことをセラピストスタッフと一緒に形にし「月に1度のマッサージの会」もスタートしました。モチベーションを保つ大事な時間です。
さらに、リンパ浮腫の患者さんが孤独や不安にならないよう、適切な指導ができる一般の医療者がもっと増えてほしいと、医療者がリンパ浮腫を学べる機会を提供しています。

オレンジティの「リンパラボ・朝めぐリンパ」※。
オンラインでリンパケアをしています。(写真提供:オレンジティ

おしゃれをあきらめないで、そして声を伝えましょう

リンパ浮腫の方へメッセージをお願いします

浮腫が悪化してからの数年間、介護や看取り、更年期障害、親との同居など、私自身にいろいろな出来事が続きました。その中で日々心がけていたのは、おしゃれをあきらめない、ということでした。おしゃれを楽しんで気分を上げて、最低限のケアはする、というのが私のスタイルになりました。
最近になって、やっと自分と向き合える時間が持てるようになったので、自分にもっと手をかけていきたいと思っています。
そして、リンパ浮腫患者の私たちの声を伝えていきましょう。仲間と一緒に語り、考え、環境を変えていけたのなら、リンパ浮腫の未来は明るいです。

定期的に治療室で用手的ドレナージと圧迫法の施術を受ける。
外出時は弾性ストッキング、寝るときや散歩や補助的弾性ストッキング(エアボ・ウェーブ)、疲れた時など必要に応じて弾性包帯を巻くなど使い分けている。
保湿はリンパ浮腫のケアの基本。
月に1度マッサージを見直したり、モチベーションを上げるプログラムに参加。

※「リンパラボ・朝めぐリンパ 」の詳細は、オレンジティホームページ をご覧ください。

(聞き手・山崎多賀子)